死後事務委任契約は、身寄りのない方や家族に負担をかけたくない方が、安心して最期を迎えるための仕組みです。しかし一方で、契約内容の不備や意思疎通不足、運営会社の経営破綻などによってトラブルが生じるケースも少なくありません。この記事では、死後事務委任契約で起こりやすいトラブルの実例や対処法について詳しく解説します。
死後事務委任契約で実現できること
死後事務委任契約とは、自分の死後に発生する手続きを、あらかじめ信頼できる人に任せておく契約です。通常、葬儀の手配や遺品整理、公共料金の支払い停止などの手続きは、家族や相続人が実施します。死後事務委任契約を結ぶことでこれらの手続きを代行してくれるので、身寄りのない人なども安心して最期を迎えられるのです。実現できることは多岐にわたります。まず代表的なのが、遺体の引き取りや葬儀・火葬・納骨の手配です。本人の希望に沿った形で葬儀を実施でき、事前に葬儀社や埋葬先も指定できます。また、死後の生活環境の整理も重要な役割のひとつです。遺品の整理や不要物の処分、家賃の支払い停止、電気・ガス・水道といった公共料金や携帯電話の契約解除など、生活の痕跡を整理する業務も受任者が代行します。
さらに、医療費や介護費、公共料金など、亡くなった後に発生する未払い債務の清算も、死後事務委任契約によって代行可能です。また、親族や友人への訃報の連絡、遺言書の内容に沿った連携なども代行できます。中には、ペットの世話や引き取り先の手配を契約内容に含めるケースもあります。
死後事務委任契約で起こりやすいトラブル
死後事務委任契約は、死後の手続きを信頼できる第三者に任せたい人にとって心強い制度です。しかし、契約の性質上、委任者が亡くなった後に実行されるため、注意を怠るとトラブルに発展することも少なくありません。運営会社の経営破綻
死後事務委任契約は、生前に締結してから実際に履行されるまで長期間を要することが多く、その間に運営会社が倒産してしまう可能性もあります。経営破綻してしまえば、葬儀や納骨、家財整理などの依頼していた手続きを履行できません。また、契約時に支払った預託金が返還されず、金銭的な損失を被るリスクもあります。親族とのトラブル
死後事務委任契約では、葬儀の形式や納骨の方法、遺品整理などを事前に定められますが、これらは本来、相続人が判断する事項です。そのため、契約内容が相続人の意思と異なる場合、受任者と親族の間で対立が生じることがあります。とくに葬儀の規模や納骨先をめぐって意見が分かれるケースは多く、事務手続きが滞ることもあります。無資格者によるトラブル
死後事務委任契約は法律上、弁護士などの資格をもたない人でも締結できます。しかし、死後の事務処理には、弁護士の専権事項である相続に関するものが含まれる場合があります。無資格者が相続手続きに関与した場合、財産を適切に処理できない可能性があるので注意が必要です。トラブルの予防策と対処法
死後事務委任契約は、亡くなった後の手続きを信頼できる第三者に任せられる制度ですが、内容があいまいなまま締結すると、残された親族や受任者との間でトラブルになりかねません。ここでは、トラブルを防ぐための具体的な予防策と対処法について解説します。契約書を作成する
まず重要なのは、契約内容を明確に示した契約書を作成することです。死後事務委任契約は口頭でも成立しますが、口約束では第三者に詳細を証明できません。また「葬儀を依頼する」だけの抽象的な表現では、受任者や遺族が判断に迷い、意向と異なる形で実施される可能性があります。契約書には、葬儀の形式や宗教団体の指定、葬儀社の名称、費用の上限、連絡すべき人の名前など、具体的な事項を詳細に記載しておくことが大切です。加えて「報酬の金額」「支払時期」「支払い方法」などの条項を明確にしておけば、後の争いを防げるでしょう。